写真 鶴岡市 歯科黒谷クリニック

この人

歯科用材料の研究を続ける歯科医師・・・黒谷知子さん

 鶴見大歯学部卒。東京都内での勤務医、山形大医学部歯科口腔外科文部教官を経て、昭和61年に郷里に戻り、開業。日本顎咬合学会理事、形状記憶医用合金学会評議員を務める。

「生き方配慮した医療を」

 11月初めに、静岡県浜松市で開かれた日本口腔インプラント学会で、「生体医用材料としてのチタン金合金の開発」をテーマに研究発表した。仲間5人との5年間にわたる共同研究の成果をまとめたもの。
 歯科用材料として金合金は、義歯などに幅広く用いられている。しかし、金合金の持つイオン化傾向の性質が、皮膚アレルギーを引き起こす原因ともなることが、皮膚科等から報告されているという。そこで、生体に優しいとされ、実際に医用材料として使用されているチタンに注目し、チタンを加えた金合金の試作開発を進めた。
 研究段階で試作したチタン金合金をさらに加熱処理すると、合金の表面にチタン層が形成されることが判明。研究発表では、このチタン層に着目し、生体適合性を向上させ、アレルギー症状などを引き起こさない歯科用材料となる可能性を示した。
 「さらに研究を重ね、一般歯科材料として使用することが可能となれば、金属アレルギーの人たちにとっても福音となるはず。そうしたことを願って研究を続けた。今回の研究発表はそのための第一報です」と語り、研究への意欲がほとばしる。
 山形大医学部口腔外科での研究経験もあり、高度先進医療への関心は高い。「インプラント(人工歯根)やGTR(骨再生術)などの高度先進医療を受けられる患者さんは、幸せだと思う。でも、医療技術が高度になるほど医療者にとっては、スタッフも巻き込み、自らの首を絞めることにもつながる。したがって、より勉強を重ねなければならない」と、開業医としてのジレンマも感じる。
 「いわゆる高度先進医療を手掛けてしまうと、患者さんより先に死ねないな、と思ってしまいます」と笑う。
 「歯科医療の現状はまだ、歯医者側からの一方的治療でしかない。患者さん自身が、将来どのように生きていこうとするのかを、まず考えること。そうしたことが、これからの歯科医療にも必要となってきます」と語った。

荘内日報(1995年12月2日)より